キリスト教の経典。
その名称の由来となったギリシア語「ビブリオン (biblion) 」 (小冊子) は、biblos (書物) から来ており、語源はシリアの地名ビブロスである。古代にはビブロス港からシリア産パピルス (古代の紙) が多く輸出されたからだ。
キリスト教によれば、神の言葉が書かれた本は、この地上で唯ひとつしかない。それが『聖書』である。
『聖書』は、『旧約聖書』と『新約聖書』から成る。
「約」とは「約束 (testamentum)」のことであり、神と人との契約のことである。
『旧約聖書』はユダヤ教と共通の聖典で、古代ユダヤでヘブライ語で書かれた(ダニエル書はアラム語)。
現行版は「創世記」以下39書から成り、歴史書、預言者の記録、知恵の書、詩篇などに分類される。
この正典のほかに、外典・偽典が存在する。
『新約聖書』は、ローマ時代にイエスの弟子たちによって共通口語ギリシア語 (コイネー) で書かれた(但しイエス自身はアラム語で説教)。教会で回覧された種々の手紙や勧告、伝承などを編集したものである。
内容はイエス・キリストの布教 (福音) の記録である4つの「福音書」、使徒 (特にペテロとパウロ) の業績の記録「使徒行伝」、使徒の書簡13通、黙示文学である「ヨハネの黙示録」など27書である。
なお「新約」とは、神との契約がイエス・キリストの登場で新たに結び直された、という思想を表している。
『新約聖書』にも外典が存在する。
古代西方教会は、ギリシア語原典『聖書』のラテン語訳「ヴルガータ」(聖ヒエロニムス訳)を正教典とした。
ところが西方世界が没落すると、ギリシア語はおろかラテン語すら読める者がほとんど居なくなってしまった。そのため中世では、特別な学者や修道院を除くと、一般には聖書を用いないのみか、ほとんど忘れ去った。その結果、西方世界では、信徒の指導者としてのローマ教会の地位は絶対的なものに高まった。
プロテスタントの宗教改革の後、トリエント宗教会議 (1545-1563) に於いて、「ヴルガータ聖書」を唯一の正教典として確認した(このため、ヘブライ語及びギリシア語原典もローマ・カトリック教会から拒否される結果となった)。しかもその解釈は教会的伝統の上に立ち、その権威に従って行わなければならないと決められた。
従って大きく言えば、カトリック教会の権威を絶対とする人々はローマ・カトリックに残り、『聖書』の権威をより高く考える人々はプロテスタントとなったと言える。
= 歴史 =
- 前10世紀
- 『旧約聖書』の最古の部分が書かれる。
- 前3世紀以前
- 『旧約聖書』の原型 (=ユダヤ教聖典) ほぼまとまる。
律法の部分は、前10世紀以降残された次のような資料が幾度か編纂されて作られた。
- ヤハウェ資料 (J)
- エロヒム資料 (E)
- 申命記資料 (D)
- 祭司法典 (P)
- 前3〜2世紀
- 『旧約聖書』律法部分 (=ユダヤ教聖典) のギリシア語訳「七十人訳聖書 (セプトゥアギンタ)」が完成。
- 前4?〜後30?
- イエス・キリストが活動。
- 50頃
- 『新約聖書』の一部が書かれ始める。
- 70 イェルサレム神殿の破壊
- 後1世紀末
- 『旧約聖書』のヘブライ語正典が最終的に決定される。
次のような内容を持つ。
- 律法 (トーラー)
- 創世記
- 出エジプト記
- レビ記
- 民数記
- 申命記
- 預言 (聖文集) (ナビーム)
- うち本来の預言書……「イザヤ書」「エレミア書」「エゼキエル書」及び12小預言書
- 歴史書……「ヨシュア記」「士師記」「サムエル記」「列王紀」
- 諸書 (ケスビーム)
- 詩篇
- ヨブ記
- 箴言
- ルツ記
- 雅歌
- 伝道の書
- 哀歌
- エステル書
- ダニエル書
- エズラ書
- ネヘミア記
- 歴代誌
- 140頃
- 『新約聖書』が最後の巻が書かれる。
『新約聖書』の書簡集は使徒パウロの作とされるが、「テモテへの手紙 第1」「同 第2」「テトスへの手紙」の牧会書簡は、パウロの手紙を含むものの、彼の弟子の作と推定される。また「ヘブル人への手紙」はパウロの作ではない。
「ヤコブの手紙」「ペテロの手紙 第1」「同 第2」「ヨハネの手紙 第1」「同 第2」「同 第3」「ユダの手紙」は特定の相手に送られたものではなく、一般に公開されたもので、「合同書簡」と呼ばれる。
- 150頃
- 異端グノーシス派が様々な文書でその所論を裏付けようとしたので、これに対抗する必要から正式な聖典としての『聖書』を編纂する必要が生じた。
- 2世紀
- 『聖書』のシリア語訳、ラテン語訳が完成。
- 397
- カルタゴ会議でようやく現行『新約聖書』の27書が正式に公認され、確定。
- 4世紀
- 聖ヒエロニムスが『聖書』をラテン語訳 (のちに「ヴルガータ」と呼ばれる)。
- 9世紀
- 聖ヒエロニムスによる「ヴルガータ」がラテン語訳『聖書』の決定版とされる。
そのためこれは、中世において全西方教会で用いられ、その改訂本を現在もローマ・カトリック教会で公用。
- 14世紀
- ウィクリフが『聖書』を英訳。
- 16世紀
- ルターが『聖書』を独訳 (完訳1534年)。
- 1611
- イギリスで英語の『欽定訳聖書』。
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- 1880
- 日本語完訳『新約聖書』。
- 1888
- 日本語完訳『旧約聖書』。
- 1987
- 日本語訳『《新共同訳》聖書』。
- 1998年現在
- 1200を越える各国語訳があり、一方で新発見の『死海文書』などに基づく聖書原典の研究も進む。
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