訶陵
かりょう 7世紀前半〜9世紀後半
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 古代ジャワ島にあった仏教国。唐に使節を派遣したので唐の史料で知られる。
627
 唐に最初の朝貢。
 唐代の史書『通典(つてん)』によれば、この国は「627〜649年にかけて使者を送った。支配者の住居は木の杭の城壁に囲まれ、数階建ての建物は椰子の葉で覆われている。寝台はみな象牙で出来ている。食事の時は手を用いる。彼らは椰子の花で強い酒を造る。山の洞窟からは塩が滲み出し、この国の人々はそれを集めて食べる。」

660年代  
 義浄について広東からシュリーヴィジャヤ王国に渡った中国僧の一人、会寧律師(かいねいりつし)は、660年代に3年間この国に滞在、上座部仏教の経典を学ぶ。
 この国では仏教が大変盛んで、中国僧の間では東南アジアの仏教の中心のように考えられていた。
 8世紀初めに密教の大僧侶、不空を教えた金剛智も、訶陵出身だったし、弘法大師が長安で一緒に仏教を学んだ弁弘も、訶陵国の人だった。
686  
 シュリーヴィジャヤ王国のジャワ遠征に際し、攻撃を受けた可能性?

695
 この年の朝貢を境に、訶陵はしばらく中国史料から姿を消す。
 (朝貢はこの時から約70年間中断される。)

8世紀中頃(742年と755年の間のこととされる)
 訶陵の国の王、吉延(サンスクリット語名「ガジャヤナ」の漢訳とされる)は、都を闍婆から、東方の婆露伽斯城に遷し、闍婆城と名付けた。

768  
 訶陵国の中国への朝貢が再開される(〜870年)。


現地の国名との比定

 かつては漠然と、「訶陵」=「カリンガ」(インド東岸コロマンデル海岸北方)に由来するインド文化系の国のことと考えられていた。
 しかしフランス人ダメーはカリンガとの関係を全く否定し、また沖田浩三は「訶陵」=「カルン」と考え、これに接頭辞と接尾辞のついた現存の地名「プカロンガン」(中部ジャワ北岸)に結びつけた。
 訶陵は現在のプカロンガンにあったのだろうか?

 ところで、プカロンガン州ソジョメルトからは、シヴァ教を奉じていた「サレンドラ」王家のことが記録された古マレー語碑文(7世紀)が発見されている。
 この「サレンドラ」が、後年の大勢力「シャイレーンドラ」王家を指すとすれば、訶陵国を支配していたのは、シャイレーンドラ王朝の先祖たちであった、という推測が成り立つことになる。

 不可解なのは、8世紀中頃に最盛期を迎える前、70年ほど歴史から姿を消していたことだ。訶陵国による唐への朝貢は670年ころ一旦途絶するのである。
 この期間にはもしかすると、中部ジャワに君臨したもう一つの王家、サンジャヤ朝に圧倒されていたのかも知れない。と言うのは、プカロンガン地方の背後に位置するディエン高原には、7世紀後半〜8世紀に建てられたと思われる石造建築群が残されており、それがサンジャヤ朝によって建てられた可能性があるからである。ディエン高原の遺跡群は仏教ではなくヒンドゥー教(特にシヴァ信仰)のものであり、サンジャヤ朝はシヴァ教を信奉していたのだ。

 あるいは、シュリーヴィジャヤ王国の討伐を受けて一時的に勢いを失ったのかも知れない(生田滋説)。
 碑文からは、シュリーヴィジャヤが680年代にジャワに遠征軍を送った事実が知られている。
 一方、中国史書の記録からも訶陵の朝貢が670年以降途絶し、代わって695〜742年の間、シュリーヴィジャヤ王国が唐に入貢したことが分かる。
 これらのことから、シュリーヴィジャヤが行ったジャワ遠征の結果、シャイレーンドラ朝訶陵国が征服された可能性が考えられる。興隆しつつあったジャワ中部の新勢力は、さらに急速に立ち現れたライヴァル、シュリーヴィジャヤによって頭を押さえつけられてしまったのだった。

 いずれにせよ、訶陵が朝貢を再開する8世紀後半から9世紀には、中部ジャワでは仏教遺跡ボロブドゥールを残したシャイレーンドラ王朝が全盛を迎えていた。「訶陵」=シャイレーンドラ朝だとする説はますます有力になる。
 シャイレーンドラ王家は、もともとジャワ北岸の港湾都市「カルン」の支配者として誕生し、インド商人を保護して仏教に帰依し、7世紀末〜8世紀前半にはいったん危機に陥りながらも、次第に国力を高め、やがて中部ジャワまで支配下に入れた……こういうことではないだろうか。

 シャイレーンドラ朝は8世紀中頃、猛烈なエネルギーで膨張を始める。8世紀中頃に行われた訶陵王吉延の東遷は、それを示すとも考えられる。東方に新しい「闍婆城」を築いた彼らはサンジャヤ朝を圧倒し、8世紀後半にはチャンパーやタイ、クメールを荒らし回り、「崑崙闍婆の賊」と恐れられたのである。

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©1998 早崎隆志 All rights reserved.
更新日:1998/08/31

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